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2008.04.14

05■文字について

(ここにあるのは旧ファイルです。このページの内容を踏まえた、新たなテキスト「まんが史の基礎問題」をアップしています。トップページからアクセスして下さい)


 まんがには、多くの場合文字が書かれる。文字のないまんがもあるが、一般的に文字を組み合わせることが普通に行なわれており、「文字」や「文字と絵の関係」などを検討する必要がある。
 「文字」の起源については、学説によってさまざまな見解があるようだが、文字が単なる記録のための図形ではなく、現在につながるような表音文字を用いた記号体系として成立したのは、紀元前3700年頃のシュメール語においてだと言われている。スティーヴン・ロジャー・フィッシャーによれば、文字は文明の発展によってそれぞれの地に自然発生的に出現したものではなく、このシュメール語のアイディア(体系的音標綴字法)が原型となって、各地の文明に伝わって広がり、それぞれの地で独自に展開していったとされる。
 絵文字が、もはや絵ではなく音価をもった記号となることで、文字として独立していったとするならば、この時代以降に「絵と文字」の関係も始まり、現代にいたるまでさまざまに表現されてきたといえる。紀元前から各地では、印章や碑文などに絵と文字の組み合わせが多数用いられており、この2つを組み合わせる表現は特殊なことではない。まんが表現の特徴として、絵と文字の組み合わせを挙げる人もいるが、そのこと自体は人類の歴史上ありふれた表現方法であり、まんがだけの特徴ではない。
 ヨーロッパを中心とした「絵画表現」の歴史においては、絵から文字を排除する傾向が強かったため、近代以降に改めて絵に文字を組み合わせることが問題にされたりもしたが、それは絵画史の中の特殊なできごとでしかない。ヨーロッパでもルネッサンス以降に出版された本を見れば、宗教書にしろ動物誌にしろエンブレム集にしろ、絵と文字が密接に結びついた表現が多数確認される。
 ただし、絵と文字の検討は、決して簡単なことではない。
 まず、文字は絵から分化したとはいっても、あいかわらず絵と同様の「イメージ」でもある。ヒエログリフを見てもわかるように、文字はひとつのイメージでありながら、音価を持っている。たとえ絵文字でなくとも、カリグラフィや、筆による「書」を思い浮かべればわかるように、文字は音とイメージの結節点という特別なあり方をする記号である。その両義性の検討は、非常に多くの問題を含んでいる。
 また「文字」というよりも「ことば」という面から考えた場合、まんがの中のせりふやモノローグ、ナレーションなどは、まんがの問題である以前に、少なくとも「演劇的なことば」として先に検討されるべきことだ。その後ではじめて、それがまんがの画面の中でどう組み合わせられ、表現されたかが問題になる。
 このような問題を棚上げした上で、絵と文字の関係を抽象的に考察すれば、歴史的にいくつかの類型に分類することは可能である。たとえば、絵や文字がどちらかを(あるいは相互を)「説明」するもの(パラフレーズ)、絵や文字がどちらかを「補う」もの(追補)、両者の組み合わせによって意味や象徴などを「構成」するもの(生産)、絵と文字が相互に詩的に関わるもの(生成)など、機能面からの検討・分類をすることができる。これは、コマ割りされていないまんが表現には特に有効であり、19世紀までの表現史の検討には役立つはずである。
 一方、主に20世紀以降の物語まんがについて、絵と文字の関係を検討するのは容易なことではない。
 ここでは当面、テプファーやその時代を検討する中で、絵や文字の問題も考えていく。

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