ラブプラス
電話でまんが家さんと仕事の打ち合わせをしていたら、ラブプラスというDS用のゲームが話題に出た。プレイしていないので、実際のことは知らない。ただ、ああ、とうとう来たか、と思った。というのも、ちょうど10年くらい前(1999年秋)に私が突然思いついて企画していたゲームが、そんな種類のものだったのだ。「彼女と同棲している生活をリアルタイムでシミュレートする携帯用オンラインギャルゲー」というのが企画の骨子で、まんが家や企画会社の人たちに話したら多くの人が面白がってくれて、結構ビッグネームの方もスタッフに加わってくれて、実は2000年から翌年にかけては真面目に企画を準備をしていたのだけれども、いろいろな事情があって結局は頓挫してしまった。(最大の問題は、私自身にゲーム制作の経験がなかった上に、最終的にビジネスに徹しきれなかったことだったのだが)
その後、こういうことはいつか誰かがやるだろうと思い、「どこでもいっしょ」が出た時は、かなり近づいてきたなあと思っていた。どうやら今回、ついにストライクなものが現れたようだ。
ハードディスクの奥から当時の企画書を引っぱりだして見てみたら、企画書の最後の改訂日付は、2001年8月だった。それを見て、ようやく思い出した。その翌月の事件以降、私の頭はだんだん「おたくビジネスモード」から離れて、自分でも何だかよくわからない場所へすっかり流れていってしまったのだ。(今も流浪中だけど)
企画書を読み直してみたら、自分で言うのもなんだが、結構面白い。一部を抜粋して紹介してみます。
仮題「パートナー」
●ビジネスのキーコンセプト
Mental care service for Otaku generation
おたく世代はすでに30代から40代へと突入している。
多くは独身のまま1人の「おたく」として生涯を終えていくであろう彼らには、まんがやアニメやフィギュアに囲まれた、楽しくも寂しい老後が待っている。
夜、仕事を終えて家に帰っても、誰もいない。待っているのはパソコンかテレビのモニターだけだ。自分で組み立てたパソコンや、DVDなどの充実したAV機器に囲まれて、楽しい時間を過ごすことはできるが、側には誰もいない。
過去にそこそこの恋愛経験(または離婚歴)はあるものの、すでに同世代の女性らは家庭に納まっている年齢であり、付き合ってくれる女友達は年々減って行く。寂しい時に寄り添ってくれるほどの親密な恋人はいない。かといって、18禁のギャルゲーに心底熱中できるほどには、もはや精神年齢が若くもない。手持ちぶさたな夜を過ごすよりはと、仕事三昧の日々を送ったりしている。
彼らが50代、60代、70代と年齢を重ねていくと、どのような生活が待っているのだろうか?
年をとっていく「独身おたく」の心に生じる空洞を、「おたく」としての視点からケアして行くこと。これが、企画のキーコンセプトである。
さまざまなビジネスモデルが考えられるが、当面は、最もわかりやすい企画として「バーチャル恋人」の実現を目指す。
<世界の終わりとハートフルギャルゲーランド>
世界は、どんどん閉じていく。
そしてもう外へは出られなくなる。
人はこの中で、孤独に生きていくしかないのだ。
その時そこには、ただギャルゲーがあるだろう。
とてもハートフルなギャルゲーが。
●最終目標モデル
究極の目標は、アンドロイドの家政婦(メイド)。
しかし、これが実現するのはまだかなり先なので、その前段階として、ホログラフィによる3Dフィギュアのアンドロイドを構想する。
3D映像だが、生きているかのように、普通に動き、話す。
話しかけるとちゃんと答え、表情を振りまく。しかしホログラフィなので、触ることはできない。(→どうやってもプラトニック。これが結構重要)
イメージは、「南くんの恋人」(内田春菊)のような存在。この世のマトモな生き物ではないが、いつもそこにいて、心の身近な存在になってくれる。
いつも家で待っていて、家に帰ると「おかえり!」と言ってくれ、今日あったことなど、ちゃんと話し相手になってくれる。時には、洋服を欲しがったり、一緒に旅行に行きたがったりする。それらは、PC内のバーチャルイベントで実現させる。そうやって、2人の思い出が積み重なっていく。
家でじっとしているだけではない。昼間、会社で仕事をしていると、突然携帯に電話をかけてきたりする。「今晩、いっしょにご飯食べるよね?何時に帰ってくるの?」「おい、いま会議中なんだってば。まずいよ。仕事中に電話してくるなって言ったろ?」なんて会話をすることができる。近くの同僚からは「おー、彼女から電話かよ」と冷やかされて、「いやー、たはは」と照れてみせる生活が、独身のくせに、ついに実現するのだ。
はっきり言って、少しうざったい。しかし、「誰かから拘束されること」こそが、企画の重要なポイントだ。「彼女に振りまわされる生活」を送ることこそが、バーチャル恋人企画の肝なのだ。
……しかし、これも実現にはもう少し時間がかかる。そこで、現時点で可能なシステムとして以下のような企画を立てる。
●2000年度実現可能モデル
【家に帰れば彼女がいる】
家のパソコンの中には、彼女が待っている。彼女に会って会話をするために、家に帰る意欲がわく。そんな存在を目指したい。
【仕事をしながら、ふと思う。今ごろ彼女はどうしているのだろう?】
会社で仕事をしていても、電車で通勤している時でも、ネットワークの向こうのどこかに彼女は居て、自分と同じ時間を過ごし、彼女なりに生活している。その彼女から、携帯にメールが届く。こちらからも返事をする。コミュニケーションは、24時間いつでも可能だ。
彼女から返事を要求されている時は、できるだけ早めに返事をしてやらないと、むくれてご機嫌を損ねてしまうだろう。約束を反故にする時も、あらかじめ断りを入れて謝るべき。
やりとりが積み重なっていく度に、親密度は上がり、選択肢によって彼女の「成長」の仕方は違う。(育てゲー。アイボやたまごっち風)
携帯を通じて、いろんな約束をしたり、励まされたり、裏切ったり、謝ったり、元気づけたり、さまざまなことが可能だ。メールのやり取りの結果、夜帰宅してPC内の彼女に再会した時、彼女はどんな顔をしているのだろうか。その彼女の顔を思い浮かべながら家路を急ぐのも、悪くない。もしかしたら、お土産を用意して帰った方がいいかもしれない。
【具体的なシステム】
・メインマシン
ゲーム機やPC上に「彼女の部屋」がある。
彼女とはメニュー形式で会話が可能。(シミュレーションゲーム風、育成ゲーム風、アドベンチャーゲーム風など、味つけは様々に考えられる。委細は今後検討)
表情の変化を見たり、彼女の服を着せ替えたりすることも可能。服や他の備品は、もちろん買ってきてプレゼントする。ポストペットのおやつのようなもの。オプションデータとして販売する。
画面の中の彼女を放っておくと、たまごっちやポストペットのように、寝たり、ごはんを食べたり、勝手な行動をしている。
シナリオの進行次第では、アドベンチャー・ゲーム的なイベントを発生させて、より親密になれる。(一緒に温泉旅行へ行く、事件が起きるなど。ギャルゲー風)
ソフトの終了時には、モデム経由で行動データがホストに送られ、記録される。また起動時には、ホストから行動データをダウンロードし、携帯電話による操作との整合性を図る。
・携帯電話
彼女からは時々メールが送られてくる。返事をするには、メール内のリンクボタンを選択することで、Web上の彼女の部屋に接続する。
彼女が居れば、メニュー形式で会話できる。留守の時は、伝言を残しておく。
もちろん、メールを待たずに彼女の部屋を訪れても構わない。
以上のシステムにより、「彼女」に関するデータは一元管理され、メインマシンと携帯電話のどちらでアクセスしても、整合性が保たれる。
ホストで管理するのは携帯電話用のテキストデータとフラッグ情報のみであり、グラフィックデータはメインマシンのCD-ROMに納められ、必要に応じて呼び出される。
当時はPCのネット常時接続なんて一般的には考えられなかったし、機能の貧弱な携帯電話を使って、どう実現するか苦労したのだった。今からどこかで作りませんか、これ。
後に「〈美少女〉の現代史」で書くような認識は、実はこの企画で考えたことが土台になっている。あの本を書くよりも、この企画を実現した方がずっとよかったような気がしないでもないが、娯楽作品の中についつい「毒」を仕込みたがってしまうクセが抜けない私には、これをきちんとベタな娯楽コンテンツに仕上げることは、最終的には無理だったみたいだ。特に2001年以降の現実の中では。
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